現在、木村泰文税理士事務所では、提携している各士業の先生方を少しでも知って頂くため、先生方からお役に立つ情報を提供して頂き、発信しています。
今回は第58回目として、弁護士の先生から頂いた情報で、「成年後見制度」についてです。
Q&A成年後見
【質問】
本人は80代男性で妻,長男夫婦と同居しています。本人は数年前から認知症になっており,要介護4の認定を受けています。本人は賃貸用マンションを1棟所有しており,その管理を長男が代表者になっているA不動産が行っています。
本人について長男が成年後見の申立てを行い長男が後見人に選ばれました。1年後に家庭裁判所に報告書が提出されましたが,それによると長男はマンションを売って売買代金をA不動産が新しく始める携帯電話ショップの開店資金に使い,また,長男の娘が大学に入学するための入学金,授業料に使っていました。
どう考えればいいでしょうか。
【回答】
後見人の職務の1つは他人の財産を管理することです。他人の財産を管理するわけですから,後見人には慎重な対応が求められます。後見人が自分の家族の後見人になっていても,家族とは他人の立ち場で財産の管理をしなければなりません。
後見人に求められる財産管理上の注意義務は,人が一般に要求される程度の善良な管理者の注意義務です。本人の財産を自分の財産を処分するのと同じように処分することは認められません。
本件の事例では,後見人である長男が本人のマンションを売ったお金を自分の経営するA不動産の新規事業資金と自分の娘(本人の孫)の学費に使用しています。これは本人の財産をA不動産や自分の孫に本人が贈与したのと同じことになります。このようなお金の使い方は本人の財産を減少させ本人の利益になるものでもないので,基本的には善良な管理者として適切な財産管理をしているとはいえないと考えられます。
しかし,これらのお金の使い方が常に不適切な管理方法として善良な管理者の注意義務違反になるかというとそうとも限らないと考えられます。たとえば,贈与が冠婚葬祭など社交儀礼上のものやお世話になった謝礼のようなものなど本人の財産状況も考え合わせて社会常識的な範囲内のものであれば,善良な管理者の注意義務に違反した不適切な支出とはいえないと考えられます。
さらに,本人と相手方とのこれまでの関係から支払いをする意思が推定され,その支出に合理的理由がある場合には支出が不適切とはいえない可能性もあるようにも思われます。しかし,基本はあくまでも後見人は本人の財産を善良な管理者の注意義務をもって管理しなければなりませんから,安易に合理的理由の判断をすることはできず,厳格で慎重に検討する必要があるといえます。本人が賃貸用マンションについてどのような考えを持っていたのか,本人がA不動産の経営にどのように関わってきていたのか,A不動産の現在や今後の運営についてどのように考えていたかなど本人と賃貸用マンション,A不動産の関わりについて慎重に判断することが必要でしょうし,孫については,本人が孫のことをどのように思い,どのようなことを言っており,どのようなことをしてきていたかというこれまでの事情をよく検討することが必要と考えられます。
なお,民法では,直系血族の間では互いに扶養する義務があると定めています。本人と孫との間でもこの義務が存在しますが,扶養は生活を維持できない家族がいる場合に他の家族が金銭などを提供して助けることなので,大学の学費を提供することは扶養の内容にはならないと考えられます。
今回の支出に合理的理由がなく,後見人が善良な管理者の注意義務に違反して自分や第三者のために支出を行ったと判断される場合,家庭裁判所は不当に支出したお金を本人に返すよう後見人を指導監督します。後見人の今後の後見事務に信頼が置けないと考える場合は,家庭裁判所は後見人を解任し,後任の後見人を選任することもできます。後任の後見人は後見人であった長男やA不動産,長男の娘に不適切に支出されたお金の返還請求をすることができると考えられます。
※次回の掲載日は、12月31日前後を予定しております。
法律関係でお困りでしたら、提携している弁護士をご紹介いたします。
お困りの際には、まず木村泰文税理士事務所へご連絡くださいませ。