現在、木村泰文税理士事務所では、提携している各士業の先生方を少しでも知って頂くため、先生方からお役に立つ情報を提供して頂き、発信しています。
今回は第81回目として、弁護士の先生から頂いた情報で、「成年後見制度」についてです。
Q&A成年後見
【質問】
本人は75歳,自宅でひとり暮らしをしています。夫は5年前に亡くなっており⼦どもはなく,親族は遠くに住んでいてほとんど付き合いはありません。高血圧で糖尿病と診断されていますがそれ以外に体に悪いところはなく,認知症の診断もされていません。
本人は,先日自宅で急に気分が悪くなり救急車を呼んで入院しました。原因がはっきりしませんでしたが,年齢も考えると本人は将来のことに不安を覚え,この先認知症になって判断能力が低下したり脳出血などで体の自由がきかなくなったときの生活が心配になり,自分が亡くなったときの葬儀や納骨のことも気になってきました。
どうすればいいでしょうか。
【回答】
1 今は十分に判断能力があり,日常生活,社会生活を問題なく過ごしているが,将来,自分の判断能⼒が⼗分でなくなり,預貯金の管理や物を買うなど日々の生活が十分にできなくなってきたときのために,財産管理や身上面の支援をしてくれる人を予め決めておく制度として,任意後見契約というものがあります。
これは,本人と任意後見人となる人の間で任意後見契約を結んでおき,本人の判断能力が不十分になったときに,自分の生活,療養看護,財産管理などの事務を任意後見人に任せる制度です。基本は委任契約という契約の仕組みに基づいて行われます。後見,保佐,補助の法定後見は,法律に基づいて家庭裁判所が後見人などを選任しますが,任意後見は,本人が自分で任意後見人を予め契約で決めておくことができます。任意後見人には代理権が与えられるだけで,法定後見制度におけるような同意権・取消権は与えられません。
任意後見契約は,当事者で契約するだけでは十分でなく,判断能力が不十分な人がよく分からないまま任意後見契約を結ばないようにするため,公証人が作成する公正証書で契約を結ぶことが必要となっています。任意後見契約公正証書が作成されると公証人は法務局に登記をします。
2 任意後見契約は,契約を結んで任意後見契約の登記がされてもそれだけでは効力は生じず,任意後見人もまだ活動できません。任意後見契約が効力を発生するには,本人の判断能力が不十分(補助開始相当程度の判断能力)になったときに,任意後見人となることが予定されている人や4親等内の親族などが家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをします。家庭裁判所が任意後見監督人を選任することにより,任意後見契約は効力を発生します。本人が補助相当以上の判断能力になっていると,任意後見人を自分で監督することは難しいので,任意後見監督人が任意後見人を監督して本人を保護する仕組みになっています。家庭裁判所は任意後見監督人を通じて任意後見人を間接的に監督します。
3 任意後見契約は,本人と任意後見人となる人の間の契約で成立しますから,任意後見人のする仕事は契約で決めておきます。任意後見人の報酬も契約で決めておくことになります。任意後見契約で決めたことを後で変更する場合は,公正証書を別に作成して任意後見契約登記をする必要があります。後で作った公正証書についても任意後見監督人の選任申立てをする必要があります。
任意後見人が辞任(任意後見契約の解除)する場合は,任意後見監督人が選任される前は公証人の認証を受けた書面によって任意後見契約を解除することができます。任意後見監督人が選任された後は,本人と任意後見人が家庭裁判所の許可を受けて任意後見契約を解除することができます。任意後見契約が終了するとそのことを登記する必要もあります。
4 本人の死後の葬儀や納骨などの事務処理(死後の事務処理)は,任意後見契約の対象にはなりません。別に死後の事務処理についての委任契約を結んでおく必要があります。任意後見契約と一緒に公正証書の中で定めておくこともできます。
5 任意後見契約は,本人の自己決定にかなうものと考えられており,本人の判断能力がしっかりしているのであればその理想に沿ったことが実現できる可能性があります。しかし,この制度を利用して判断能力が不十分な本人の財産を様々な形で取り込もうと考える人がいないではありません。任意後見契約を結ぶ場合は,相手の人が自分のために適切に職務を果たしてくれるかどうかを慎重に判断して見極めることが必要です。
※次回の掲載日は、4月30日前後を予定しております。
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