現在、木村泰文税理士事務所では、提携している各士業の先生方を少しでも知って頂くため、先生方からお役に立つ情報を提供して頂き、発信しています。
今回は第82回目として、弁護士の先生から頂いた情報で、「成年後見制度」についてです。
Q&A成年後見
【質問】
本人は35歳女性。20歳のときに統合失調症の診断を受けており,現在,アパートで1人暮らしをしています。隣の市に両親と弟が暮らしています。
本人は障害基礎年金と生活保護費で暮らしています。就労継続支援B型作業所に通っており,作業所の工賃もわずかですが入ってきます。本人はお金を持つとすぐに全部使ってしまうので,市の社会福祉協議会が実施している日常生活自立支援事業にお金を預け,毎週一定のお金を生活支援員に持って来てもらい生活しています。
本人は自分の気に入らないことがあると精神的に不安定になり,作業所や近所の人とトラブルになることがあり,体調が悪くなって精神科病院に何度か入院しています。
最近,日常生活自立支援事業でお金を持って来てくれる生活支援員に対して暴言を言うようになり,支援員がお金を持って行くのに恐怖を感じています。
どうすればいいでしょうか。
【回答】
1 障がいがあったり高齢になってきて金銭管理が難しい人の場合,都道府県社会福祉協議会が運営している日常生活自立支援事業を利用できます。この制度は,契約により本人から金銭を預かり,毎週一定額を本人に渡すなどして1か月の金銭管理を手助けするものです。制度を実施するのは市町村の社会福祉協議会です。
日常生活自立支援事業は,本人との契約で実施されます。本人の判断能力が失われた場合は契約を維持することができず,成年後見制度の利用に移ることになります。
本人が契約解除したいと言う場合,社会福祉協議会は契約解除に応じざるを得ません。
また,利用者との間で信頼関係が維持できなくなるような場合は社会福祉協議会から契約解除を申し出る場合もあります。ただ,日常生活自立支援事業を依頼する人は,もともと判断能力が不十分で金銭管理が十分にはできない人が前提になっていますから,安易に信頼関係が維持できないとして契約解除することには慎重であるべきです。仮に日常生活自立支援事業を契約解除する場合でも,成年後見制度の利用につないで(本人,親族が申立てできないかを検討し,いずれも難しければ市町村長申立て),後見人等が金銭管理できるよう検討することも必要になります。
日常生活自立支援事業を利用している本人について後見人等が選任された場合,日常生活自立支援事業は契約解除になり,後見人等に引継ぎが行われるというのが一般的な取扱になっています。
2 本件の場合,市の社会福祉協議会は,本人がどうして暴言を言うようになったかその理由を検討し,対応を変えたり改善する必要のあるところがあればしかるべく対応して関係を維持することに努めることになると考えられます。そのように努力しても本人との関係が改善しない場合は,本人との契約解除もやむを得ないかも知れません。契約解除の前に後見制度の利用可能性を検討し,本人が補助,保佐相当の状態であれば,本人の同意を得て本人か親族による申立て,さらには市町村長申立てをすることが考えられます。後見相当の状態であれば,申立てに本人の同意は必要ありませんが,本人に説明して理解を得るようにしながら親族による申立てあるいは市町村長申立てをすることが考えられます。
3 後見等が開始して本人に後見人等がついても本人のお金の使い方が変わるわけではなく,生活支援員の代わりに後見人等が毎週本人にお金を渡すことは変わらないと思います。後見人等がつく意味は何かというと,本人が契約などの法律行為をするときに,後見人等が法的に有効な代理人として,本人に代わって契約できることです。日常生活自立支援事業では,生活支援員は金銭の管理はできますが,本人に代わって契約などの法律行為をすることはできません。さらに,日常生活自立支援事業は本人との契約により実施するものですから,本人が契約を止めたいと言えば契約解除に応じざるを得ません。日常生活自立支援事業は本人の意思を尊重しているということができますが,本人保護の点から考えると,契約解除になると金銭管理のできない本人への支援がない状態になってしまいます。成年後見制度は法定の制度であり,本人が解除したいと言ってもそれは認められず,家庭裁判所が後見人等の辞任の許可あるいは解任をしないと後見等は終了しません。本人にとって後見等が必要なくなっても簡単には終わらないデメリットがありますが,本人を保護する面ではメリットがあることになります。
4 本人の金銭管理面での支援としては,お金を渡すだけでなく,何を買ったかレシートを保管して収支表を作り,後で振り返り,お金の使い方を本人に考えてもらいます。
本人がお金を持つとすぐに全て使ってしまう場合,そう簡単にその人の行動が変わるとは言えないですが,本人が必要な物,欲しい物についてお金の使い方を自分でコントロールできるよう繰り返し話し合うことになります。
このような本人への支援は後見人等が1人で支援するのではなく,障害者相談事業所,就労継続支援事業所,福祉事務所などと連携して情報交換,協力しながら支援することになると考えられます。
※次回の掲載日は、5月31日前後を予定しております。
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